【症状】
50代以上の男性に好発し、早期にはほとんど無症状です。
そのためしばし発見が遅れることがあります。
前立腺は尿道が通過しているので癌が進行してくると
排尿障害(排尿困難、残尿感、排尿痛、尿閉、血尿、夜間頻尿)
なども起こる可能性があります。
長く尿閉が続くと、尿が排出されず貯留するため
水腎症や腎不全などになる可能性が高くなります。
腫瘍は前立腺の辺縁部に出来ることが多いことから考えると、
このような排尿障害が出現したときには、
かなり進行してしまっていると考えられます。
他にも重要な点は、前立腺癌は骨転移を起こしやすいということです。
そのため、骨転移すると骨痛、病的骨折、などが起こります。
腫瘍の位置や、進行度合いによっては神経にまで圧迫が加わり
神経麻痺が起こってしまうことがあります。
【診療科】
泌尿器科
【検査】
患者さんが先に挙げたような症状を訴えて外来に訪れると、
医師は前立腺癌を疑って以下のような検査を行います。
経直腸的超音波検査
簡便に検査できるため外来患者にまず最初に行われます。
直腸からエコーを行うことで前立腺や精嚢の状態が観察しやすくなります。
直腸診検査
簡便に検査できるため、外来で行われることが多いです。
直腸に指を入れ、前立腺の硬さや大きさを確認します。
ただ、診断を付けるための検査ではなく、
ある程度の比較をするためだけの検査になっているので、
異常がみられなくても癌が無いことにはなりません。
他の検査を併用する必要があります。
血液検査
PSAというタンパク質が血液中からどれほど検出されるかを確認します。
4ng/ml以上の数値が検出されると癌の疑いが非常に高くなり、
精密検査を行う必要が出てきます。
PSAは前立腺癌の癌細胞が、自身や周囲の組織を破壊することで
血管内に漏れだしたタンパク質です。
細胞破壊の度合いが大きければ血中濃度が上昇します。
そのためPSAの値は癌の進展度合いを表す指標にもなっています。
針生検
前立腺癌の確定診断には必須な検査です。
侵襲の高い検査ですので、
直腸診や超音波検査で異常が確認された場合に行います。
直腸から超音波プローブを挿入し、
前立腺10か所以上から生検し組織を採取します。
注意点としては、出血や感染を起こしてしまう可能性があることです。
MRI検査
診断がついた後に治療方針を決めるために用います。
本来正常な前立腺は中心部分が低信号(黒く)、
辺縁部分は高信号(白く)を呈します。
前立腺癌は辺縁部に発生することが多いため、
辺縁部の高信号域の中に癌が低信号域を呈します。
周辺組織や臓器への浸潤転移を調べます。
骨シンチグラフィー
前立腺癌は骨転移しやすい癌です。
また溶解性骨転移に比べ造骨性骨転移をしやすい特徴があります。
この検査では放射性製剤を静脈に投与し、骨に異常集積が無いか調べます。
転移巣は正常な骨に比べて薬剤が多く集積するため、発見することができます。
同様に骨転移を検索する方法で単純X線検査もあります。
【治療】
治療法は、まずTNM分類と呼ばれる分類を用いて
癌の進行度合いを確定してから決定します。
(もう1つABCD分類と呼ばれる病期分類も存在しますが、現在の主流はTNM分類です)
根治的前立腺摘除術
前立腺に限局している癌に対して行う治療法です。
開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援腹腔鏡下手術、など多様な術式があります。
開腹手術だと出血が多くなるため、
近年は腹腔鏡下手術やロボット支援腹腔鏡下手術が
主流となってきています。
出血をほとんど起こさず手術を終わらせることができます。
年齢などを考慮し、性機能を温存する場合は
神経温存術を行うことがありますが、
通常は精嚢や神経も含めてすべて切除します。
放射線療法
放射線を外照射するだけであるため、侵襲が少ない治療法です。
一方で、照射のために2か月間毎日病院に通わないといけないという苦労があります。
また、副作用として腸管出血や血尿が起こることがあります。
小線源療法
放射性物質である低線量率ヨウ素125を含んだ
米粒より小さいカプセルを前立腺に留置することで、
放射線を当て続けることで治療します。
線源として用いる低線量率ヨウ素125は、
半減期が60日であるため、
1年経つと全く無視できる程度まで線量が落ちると考えられます。
小線源の留置のために約3泊4日の入院が必要になります。
ですが、一度入れてしまえば毎日病院に通う必要はありません。
ホルモン療法
転移がある、根治的療法が適応外、などの場合に行います。
前立腺癌は男性ホルモンを発育に必要としているので
男性ホルモンをブロックすることで癌の進行を抑えます。
根治的な治療ではありません。
【予後】
前立腺癌の大半を占める腺癌の場合は、
グリーソンスコアをもって予後判定をしていきます。
グリーソンスコア
まず、癌を組織学的形態と浸潤増殖様式から
悪性度に応じて1~5のパターンに分類します。
最も多くの面積を占める組織像を第1パターン、
2番目にくの面積を占める組織像を第2パターンとし、
この2つの合計した値(9点満点)からグリーソンスコアを求めます。
グリーソンスコア≦6 で予後良好、
グリーソンスコア≧8 で予後不良、
とされています。
【リスクファクター】
まず当たり前ですが男性のみ罹患する疾患のため
男性はリスク、女性はノーリスクです。
年齢は大きな要因になります。(50歳以上は要注意)
人種(黒人、白人に多い)、遺伝、食生活もリスクファクターとなっています。
【医学生より一言】
血尿、尿が出にくい、夜間頻尿などの症状がある場合は
すぐに近くの泌尿器科(なければ内科の先生に紹介状を書いてもらって)に
診察を受けに行くことをおすすめします。
前立腺は直接的に尿に関係しているわけではありませんが、
尿道を狭窄することで間接的に尿の排出に障害を与えることがあります。
近年、前立腺癌の治療法は増えており、
安全で確実な治療が楽に受けられるようになりました。
年齢、仕事などの社会環境、病院への通いやすさ、などを様々考慮して
最適な治療法をじっくり相談しながら決めてほしいと思います。
以上です。