放射線治療の役割について ~がん治療3本柱の1つ~

【放射線治療とは】

 

現代、2人に1人は発症するといわれている病気「がん」。

癌の治療には3本柱と呼ばれているものがあります。

 

それが、手術薬物療法そして放射線治療です。

 

近年の様々な最新研究の結果、

たくさんの抗がん剤分子標的薬などが開発され、

薬物療法の分野が一気に進歩してきました。

 

しかし、固形がんの根治治療となる治療法は

今のところ手術と放射線治療しかありません。

(白血病などの血液がんは抗がん剤で完治します)

 

これまで日本において早期に発見されたがんは

しばし手術での切除が選択されてきました。

 

転移をおこしている場合、切除不能の場合、緩和療法のため、

が放射線が適応となっていました。

 

そのため、今でも手術が最も選択されているがん治療となっています。

 

一方で、世界的に見ると放射線治療はがん治療の主流になってきています。

アメリカではがん治療3本柱の中で

放射線が最も選択されている治療法となっています。

 

放射線治療の治療成績の向上とこのような世界的な流れが相まって

これからは日本においても放射線治療が

大きな役割を担うことになっていくだろうと予測されています

 

 

【放射線治療の原理】

 

放射線は細胞に障害を与えます。

 

それは、

細胞内のDNAに直接当たって破壊する作用

細胞内の水分子に当たることで活性酸素を生み出し細胞を殺す作用

の二種類の作用によるものです。

 

そのため、放射線に当たればどんな細胞も障害を受けます。

 

ただ、正常細胞に比べてがん細胞は放射線の感受性が高くなっています。

 

別の言い方をすると、

正常細胞よりもがん細胞の方が放射線の影響を受けやすいということです。

 

この特徴を利用してがん細胞の根絶を目指し

利用したものが放射線治療なのです。

 

 

【放射線治療の利点】

 

・臓器の形態だけでなく、機能も温存することができる

 

頭頸部のがんを治療する際、手術を選択すると根治が見込まれます。

しかし、それと引き換えに

元あった機能や見た目を失うことにもなりかねません。

 

例えば、喉頭がんの治療で手術をすると

呼吸路を確保するために永久気管孔をあけることになります。

 

他にも、上顎癌の手術をすると、

上顎骨を切除することになるので、美容的なマイナスが生じます。

 

もちろん形成外科の処置も行われますので

体の他の部位から骨や組織を移植することで

ある程度は修復されることにはなりますが

完全に元通りになることはありません。

 

放射線を用いた治療ではこういった形状の変化はありません。

そのため、外見上の心配も機能上の心配もしなくても大丈夫です。

 

・体への負担が少ない

 

切らずに治せるため、体への侵襲が少ないです。

手術は全身麻酔をかけて行うため、

ある程度の体力のある人、手術に耐えうる人にしか行えません。

 

一方で放射線は機械で放射線を照射するだけなので、

患者さんは機械の中でおとなしく寝ていたらいいだけになっています。

 

しばらくの間じっとしていないといけませんが、

特に痛みもなく治療できます。

 

よく「放射線でがんを焼く」と表現されることがありますが、

これはわかりやすくするために使われている表現で、

実際に熱で焼いたりしているわけではないので

熱いなどのことはありません。

 

・すべての臓器、すべてのステージが対象

 

根治目的でも緩和目的でも放射線治療は用いられます

加えて姑息的(延命目的)にも用いられます。

 

手術が困難な臓器や部位でも

治療を行うことができます。

 

早期がん(stageⅠ、stageⅡ)の場合は

手術でも放射線でも治療できますし、

stageⅢやstageⅣの場合は放射線治療が適応となっています。

 

 

・化学療法との併用で効果が増す

 

放射線の効果を増やす薬品を併用することで

がん細胞を殺す効果が増強します

 

 

【放射線治療の欠点】

 

・一回照射しただけでは終わらない

 

一度当てただけではがんはなくなりません。

多くの場合、一定期間(2~3か月)

毎日照射のために病院に通わないといけません。

 

・即効性はない

 

手術は腫瘍を完全に摘出するため、

術後には治っているということになります。

 

一方で放射線は目に見えて腫瘍が無くなるまでには

かなりの時間がかかります。

 

照射したからすぐに小さくなるということではありません。

 

・被ばくによる影響がある

 

先ほども述べたように放射線は正常細胞をも殺します。

残念ながらその影響は免れられません。

 

放射線被ばく後、数日~数か月以内に発生する

一連の障害を急性放射線症候群と呼ばれます。

 

放射線宿酔、急性骨髄症候群、放射線肺炎、皮膚障害、

などが起こります。

 

 

【放射線治療の種類】

 

用いられる放射線としては、

電子線、陽子線、重粒子線、α線、β線、γ線

があります。

 

【治療の流れ】

 

①:診療科/放射線腫瘍医などがカンファレンスをして治療方針を検討

 

問診、検査結果、画像などを総合的に判断し、診断をつけます。

 

適応やリスクなどを考慮しながら最適だと考えられる治療法を

医師をはじめとした医療者が集まって話し合います。

 

 

②:患者さんに説明/検討

 

導き出した治療法を患者さんに提案します。

もちろん一つではなくいくつかの選択肢を提供し、

患者さんにわかりやすく説明をします。

 

必要あればセカンドオピニオンをとることもおススメします。

 

 

③:患者さんとともに治療の決定

 

患者さんの理解と同意をもって治療法を決定します。

放射線治療で決定した場合は、治療の開始日などを決めていきます。

 

 

④:治療計画の作成 ⑤:治療開始

 

原則平日は毎日照射することになります。

そして照射期間としては基本6~7週間となります。

 

つまり合計で30~35回の照射となります。

 

 

【最新の放射線治療】

 

体幹部定位放射線治療(SBRT)

 

体幹部の限局した小さな腫瘍に対してピンポイントに照射する方法です。

 

小さな肺癌前立腺癌肝細胞癌転移性骨転移に用いられます。

 

非常に大量の線量を病変部にのみ当てることができるため、

少ない照射時間と照射期間で治療でき、

周辺組織に対してと有害事項が減らせるという利点があります。

 

CT画像を利用して腫瘍をとらえることで、

通常の定位放射線照射より高度な治療ができるようになりました。

 

 

強度変調放射線治療(IMRT)

 

標的の腫瘍に対して多方向から照射野の形状を細かく変化させて照射する方法です。

腫瘍に放射線を集中しつつ周囲の正常組織への線量を減らすことができます。

 

頭頸部癌前立腺癌肺癌食道癌などに用いられます。

 

SBRTと比べて、体幹部以外にも用いることができ、

かつもう少し広範囲の照射も可能になっています。

 

 

粒子線治療

 

放射線の一種である粒子線の

 

・腫瘍への高いエネルギー集中

・生物学的効果の高さ

・高い線量での照射による有害事象の軽減

 

などのメリットを期待した治療法です。

 

適応としては、小児腫瘍骨軟部腫瘍前立腺癌などがあります。

 

 

小線源治療

 

小線源という放射線を出す小さな金属を体内に入れ

体の中から放射線を照射する治療です。

 

腫瘍に直接打ち込むか、近接した場所に置くため

非常に高い線量を当てることができます。

 

一方で半減期の短い放射線源を用いるため

約1年後にはほとんど被爆が問題にならないほどになります。

 

前立腺癌婦人科癌乳癌口腔癌食道癌などに用いられます。

 

 

化学放射線治療/免疫放射線療法

 

抗がん剤免疫療法放射線は相性がいいとされています

 

相乗効果が見込まれるため治療に用いられているのですが、

一方で有害事象も増えてしまう可能性があります。

 

高い抗腫瘍効果を生かすために

有害事項には十分に注意しながら治療を実施していきます。

 

かなり多くの癌が適応になっています。

 

 

【医学生から一言】

 

放射線という目に見えないものは

怖いですし、効果があるようにも感じられないかもしれません。

 

しかし、安全性と治療効果を保証する

確実な科学的根拠がしっかりとあります。

 

そして世界的にはスタンダードな治療法になっています。

 

患者さんにとって最適な治療法を見つけていくにあたって

手術のイメージ強いがん治療ではありますが、

放射線治療というものにもぜひ期待をしてほしいと感じています。

 

医学部を目指す人にとって放射線科医と聞いても

なかなかなじみのない、何をしているかわからない診療科かと思います。

 

ですがこれからの医学界において、

これからのがん治療の中心を担う診療科になることは

疑いようがありません。

 

日本ではまだ知名度は高くないですが、

海外では志望診療科として片手に入るぐらいの人気がある花形診療科です。

 

日本においても花形となる日は近いかもしれません。

 

ぜひ興味をもってもらえたらうれしいですし、

もっと詳しく調べみてもらいたいです。

 

home

 

 

 

ひらがな表記の「がん」と漢字表記の「癌」の違い

体の中に出来た悪性の腫瘍を

「がん」と呼べばいいのか、「癌」と呼べばいいのか

迷ったことはありませんか?

 

今回はこのややこしい話題について

解説していこうと思います!!

 

今回は悪性腫瘍の表記について

 

「がん」と「癌」の違いとしては

以下のように決められています。

 

「がん」

非正常組織の増殖(=悪性腫瘍)及びそれにより引き起こされる疾患の総称

「癌」

上皮性の悪性腫瘍およびそれによる疾患の総称

 

つまり「がん」が最も広い範囲を表しており、

その中に「癌」「肉腫」「白血病」「リンパ腫」なども含まれるということです。

 

 

上皮性とは

 

ヒトの体は様々な組織で構成されていますが、

その中で、体外の世界と接している部分を覆う

表面の組織を「上皮組織」と呼びます。

 

わかりやすいのは皮膚です。

見るからに外の空気と接しているので

上皮組織感が漂っていますよね

 

では、腫瘍の好発する部位である消化管はどうでしょうか?

 

食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸とひとつながりになっていますが、

両端は口と肛門によって外の世界とつながっていますよね。

ということは、消化管の管内は外の空気と接していると考えられます。

 

実際、消化管は上皮組織によって構成されています。

結果、消化管に発生する悪性腫瘍は「癌」ということになります。

 

また、少しわかりにくいですが、

発生段階で消化管と同じ胚葉を由来とする

肝臓膵臓などの消化器に発生した悪性腫瘍も

「癌」と表記ということになっています。

 

 

表記の具体例

 

「癌」の具体的な例としては…

皮膚癌、肝臓癌、膵臓癌、子宮癌、膀胱癌、食道癌、胃癌、大腸癌

などが挙げられます。

 

「肉腫」の具体的な例としては…

骨肉腫、軟骨肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、粘液線維肉腫

などが挙げられます。

 

「白血病」の具体的な例としては…

急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病

などが挙げられます。

 

「リンパ腫」の具体的な例としては…

悪性リンパ腫、ホジキンリンパ腫

などが挙げられます。

 

 

ここで一つ問題です。

肺に出来た腫瘍は「肺がん」なのか「肺癌」なのかどちらでしょう。

あえて先に挙げた具体例には出さないでおきました。

 

まず肺の解剖学的構造を考えてみましょう。

 

肺は呼吸するために重要な器官です。

気道→喉頭→咽頭→口腔を介して

外の世界と接しているように考えられます。

 

だから上皮性の腫瘍ができるように感じられるため、

「癌」だと考えられます。

 

実際、「肺癌」で正解です。

 

肺に出来る腫瘍は、

腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌、大細胞癌など

いくつかの組織型がありますが、

すべて上皮性の腫瘍に分類されています。

 

 

【医学生から一言】

 

上皮性の悪性腫瘍を「癌」、それ以外を「がん」、

というように表記を変えることは

患者さんに混乱を招く可能性があるので、

 

一般的に外来なので病名を伝える際には

すべての悪性の腫瘍を「がん」と表記します。

 

同様に、各保険会社が「がん保険」と

ひらがなで表記している理由も

「がん」すべてをカバーしているということを表すためです。

 

もし、「癌保険」という保険があれば、

「癌」しか保障されない可能性があるので

気を付けてくださいね。

*基本的にこのような保険はないと思いますが…

 

home

 

 

尿路結石について

【症状】

 

尿路結石には発生場所によって4種類に分類されます。

 

①腎結石

痛みは少なく鈍痛が起こります。

肉眼的血尿が出る場合もあります。

 

尿検査によって発覚する顕微鏡的血尿は頻発です。

この場合の尿は赤くないので自覚しにくいことがあります。

 

②尿管結石

急性に発症する腰部や側腹部での激痛が起こります。

肉眼的・顕微鏡的血尿も頻繁に合併します。

肋骨脊柱角(背中)に叩打痛がみられます。

 

*①腎結石、②尿管結石で全尿路結石の90%以上を占めます。そしてこの二つをまとめて上部尿管結石と呼びます。

*結石ができても自然排出することは多く、その際には排尿時の尿道痛が起こることがあります。

*適切な予防を行わないと何度も再発します。

 

③膀胱結石

主な症状は、血尿排尿時痛排尿障害です。

①②が尿とともに流れてきて膀胱で止まることが原因となります。

 

④尿道結石

主な症状は、血尿排尿障害疼痛です。

尿道を狭窄すると尿線途絶を起こします。

 

【診療科】

 

泌尿器科、内科、腎臓内科

 

 

【検査】

 

尿路結石を疑う症状を訴える患者さんが外来を訪れると、

以下のような検査を行います。

 

超音波検査

 

侵襲が無いため、スクリーニング目的で行われます。

結石は高エコーを示します。

 

5mm以上の結石であれば同定することができます。

ただ、結石のできた部位によっては描出できないこともあるので、

結石を確実に否定することはできません。

 

尿検査

 

顕微鏡的血尿がみられると様々な泌尿器疾患を疑うことになります。

 

そのうえで、高尿酸尿だと尿酸結石を疑います。

 

単純CT検査

 

確定診断に有効です。

結石は高吸収域として白く描出されます。

 

結石の種類によらず描出することができますし、

小さな結石も確実に描出できます。

 

また、腎臓や周囲の臓器についても評価することができるので、

水腎症などの合併が無いかも調べることができます。

 

【結石の原因】

 

結石にはその成分によって種類が分類されます。

 

シュウ酸カルシウム

 

尿中のシュウ酸やカルシウムが増えると形成されます。

副甲状腺機能亢進症では血中のカルシウムが増加し、

尿中に排出される量も増えるため、

 

リン酸カルシウム

 

高カルシウム尿だと結石が起こりやすくなります。

 

リン酸マグネシウム

 

女性に多く、ウレアーゼ産生菌の尿路感染症が大きな原因となります。

 

尿酸

 

高尿酸血症などの疾患をすでに持っていると、

尿中の尿酸が増えるので、尿酸結石を高率で発症します。

 

また、尿酸排泄促進薬を服用していると、

同じく尿中の尿酸が増えるので、結石になりやすいです。

 

その他

 

シスチン、キサンチンなどが尿中に増えると結石ができやすくなります。

X線検査では写らないため、CTで発見されます。

 

 

【治療】

 

疼痛の緩和

 

鎮痛剤の投与を行います。

結石の発作は激痛が襲いますので、痛みのコントロールが必要になります。

 

保存的治療

 

結石のサイズが10mm以下の場合は、

飲水により自然に排出されるのを促します。

薬物で石を溶かして小さくなったところで自然に排出されるのを待ちます。

 

そのほか、適度な運動も大切になってきます。

利尿剤を用いることもあります。

 

薬物療法

 

結石のサイズが10mm以下の場合に、

薬物で溶かして小さくすることで結石の排出を促します。

 

<主な薬剤>

 

  • サイアザイド系利尿薬: 尿中のCa濃度を下げる効果あり。
  • クエン酸製剤: Caイオンとシュウ酸やリン酸が結合することを防ぐ効果あり。
  • 重曹: 酸性の尿を中性にする効果あり。
  • 尿酸生成抑制薬: 尿酸の生成を抑制すると尿中の尿酸も減少する。

 

積極的除去法

 

疼痛コントロールが難しい場合や、保存的治療で長期間排出できない場合、

他の腎泌尿器疾患を合併している場合には積極的に結石を排出します。

 

また、10mm以上の大きな結石の場合にも行います。

 

①経尿道的尿管結石破砕術(TUL)

 

尿道からカテーテルを入れ、結石をレーダーで破壊します。

細かくした石は無理に摘出せず、

自然排出されるのを待ちます。

 

TULが尿管結石、膀胱結石、尿道結石に有効で、

腎結石には用いません。

 

②体外衝撃波結石破砕術(ESWL)

 

最も低侵襲な結石における積極的除去法です。

どの位置にある結石にも有効です。

 

ただ、出血傾向のある患者や、妊婦には禁忌となっています。

 

③経皮的腎結石破砕術(PNL)

 

腎結石にのみ行われる方法です。

背中に小さな穴をあけて、腎臓に直接アプローチし、

結石を砕きます。

 

 

【予後】

 

尿路結石は単発では死に直結する病気ではありません。

 

しかし、

 

  • 結石を放置している
  • 結石ができやすい状態を改善させないまま

 

だと他の病気の合併を起こしてしまうことがあります。

 

<主な合併症>

  • 水腎症
  • 尿路感染症

 

 

【リスクファクター】

 

【原因】のところでも詳しく述べましたが、まとめると、

 

  • 男性
  • 食事内容:欧州化した食文化
  • 内分泌・代謝異常の既往:副甲状腺機能亢進症、尿細管性アシドーシス、クッシング症候群など
  • 飲水不足:尿の濃縮
  • 尿路感染症:女性は大腸菌による尿路感染しやすい
  • 長期臥床:尿のうっ滞、尿路感染症の頻発。
  • 尿路通過障害:尿のうっ滞。
  • 薬剤:尿酸排泄促進薬、ステロイド、アセタゾラミドなど。

 

などが挙げられます。

 

【医学生より一言】

 

尿路結石は痛いです。

また、原因のひとつでもある尿酸が増えると起こりうる

痛風も痛いです。

 

痛い生活は絶対に嫌ですよね。

 

尿路結石は生活習慣の改善で大きく予防することができます。

食生活には少し気を使うだけでもいいのです。

痛くない生活が送れるようにしましょう!!

 

以上です。

 

home

前立腺癌について

【症状】

 

50代以上の男性に好発し、早期にはほとんど無症状です。

そのためしばし発見が遅れることがあります。

 

前立腺は尿道が通過しているので癌が進行してくると

排尿障害排尿困難、残尿感、排尿痛、尿閉、血尿、夜間頻尿

なども起こる可能性があります。

 

長く尿閉が続くと、尿が排出されず貯留するため

水腎症腎不全などになる可能性が高くなります。

 

腫瘍は前立腺の辺縁部に出来ることが多いことから考えると、

このような排尿障害が出現したときには、

かなり進行してしまっていると考えられます。

 

他にも重要な点は、前立腺癌は骨転移を起こしやすいということです。

そのため、骨転移すると骨痛、病的骨折、などが起こります。

 

腫瘍の位置や、進行度合いによっては神経にまで圧迫が加わり

神経麻痺が起こってしまうことがあります。

 

 

【診療科】

 

泌尿器科

 

 

【検査】

 

患者さんが先に挙げたような症状を訴えて外来に訪れると、

医師は前立腺癌を疑って以下のような検査を行います。

 

経直腸的超音波検査

 

簡便に検査できるため外来患者にまず最初に行われます。

直腸からエコーを行うことで前立腺や精嚢の状態が観察しやすくなります。

 

直腸診検査

 

簡便に検査できるため、外来で行われることが多いです。

直腸に指を入れ、前立腺の硬さや大きさを確認します。

 

ただ、診断を付けるための検査ではなく、

ある程度の比較をするためだけの検査になっているので、

異常がみられなくても癌が無いことにはなりません。

 

他の検査を併用する必要があります。

 

血液検査

 

PSAというタンパク質が血液中からどれほど検出されるかを確認します。

4ng/ml以上の数値が検出されると癌の疑いが非常に高くなり、

精密検査を行う必要が出てきます。

 

PSAは前立腺癌の癌細胞が、自身や周囲の組織を破壊することで

血管内に漏れだしたタンパク質です。

 

細胞破壊の度合いが大きければ血中濃度が上昇します。

そのためPSAの値は癌の進展度合いを表す指標にもなっています。

 

針生検

 

前立腺癌の確定診断には必須な検査です。

 

侵襲の高い検査ですので、

直腸診や超音波検査で異常が確認された場合に行います。

 

直腸から超音波プローブを挿入し、

前立腺10か所以上から生検し組織を採取します。

 

注意点としては、出血や感染を起こしてしまう可能性があることです。

 

MRI検査

 

診断がついた後に治療方針を決めるために用います。

 

本来正常な前立腺は中心部分が低信号(黒く)、

辺縁部分は高信号(白く)を呈します。

 

前立腺癌は辺縁部に発生することが多いため、

辺縁部の高信号域の中に癌が低信号域を呈します。

 

周辺組織や臓器への浸潤転移を調べます。

 

骨シンチグラフィー

 

前立腺癌は骨転移しやすい癌です。

また溶解性骨転移に比べ造骨性骨転移をしやすい特徴があります。

 

この検査では放射性製剤を静脈に投与し、骨に異常集積が無いか調べます。

転移巣は正常な骨に比べて薬剤が多く集積するため、発見することができます。

 

同様に骨転移を検索する方法で単純X線検査もあります。

 

 

【治療】

 

治療法は、まずTNM分類と呼ばれる分類を用いて

癌の進行度合いを確定してから決定します

(もう1つABCD分類と呼ばれる病期分類も存在しますが、現在の主流はTNM分類です)

 

根治的前立腺摘除術

 

前立腺に限局している癌に対して行う治療法です。

 

開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援腹腔鏡下手術、など多様な術式があります。

 

開腹手術だと出血が多くなるため、

近年は腹腔鏡下手術ロボット支援腹腔鏡下手術

主流となってきています。

出血をほとんど起こさず手術を終わらせることができます。

 

年齢などを考慮し、性機能を温存する場合は

神経温存術を行うことがありますが、

通常は精嚢や神経も含めてすべて切除します。

 

放射線療法

 

放射線を外照射するだけであるため、侵襲が少ない治療法です。

一方で、照射のために2か月間毎日病院に通わないといけないという苦労があります。

 

また、副作用として腸管出血や血尿が起こることがあります。

 

小線源療法

 

放射性物質である低線量率ヨウ素125を含んだ

米粒より小さいカプセルを前立腺に留置することで、

放射線を当て続けることで治療します。

 

線源として用いる低線量率ヨウ素125は、

半減期が60日であるため、

1年経つと全く無視できる程度まで線量が落ちると考えられます。

 

小線源の留置のために約3泊4日の入院が必要になります。

ですが、一度入れてしまえば毎日病院に通う必要はありません。

 

ホルモン療法

 

転移がある、根治的療法が適応外、などの場合に行います。

 

前立腺癌は男性ホルモンを発育に必要としているので

男性ホルモンをブロックすることで癌の進行を抑えます。

 

根治的な治療ではありません。

 

 

【予後】

 

前立腺癌の大半を占める腺癌の場合は、

グリーソンスコアをもって予後判定をしていきます。

 

グリーソンスコア

 

まず、癌を組織学的形態浸潤増殖様式から

悪性度に応じて1~5のパターンに分類します。

 

最も多くの面積を占める組織像を第1パターン、

2番目にくの面積を占める組織像を第2パターンとし、

この2つの合計した値(9点満点)からグリーソンスコアを求めます。

 

グリーソンスコア≦6 で予後良好

グリーソンスコア≧8 で予後不良

とされています。

 

 

【リスクファクター】

 

まず当たり前ですが男性のみ罹患する疾患のため

男性はリスク、女性はノーリスクです。

 

年齢は大きな要因になります。(50歳以上は要注意)

人種(黒人、白人に多い)、遺伝、食生活もリスクファクターとなっています。

 

 

【医学生より一言】

 

血尿、尿が出にくい、夜間頻尿などの症状がある場合は

すぐに近くの泌尿器科(なければ内科の先生に紹介状を書いてもらって)に

診察を受けに行くことをおすすめします。

 

前立腺は直接的に尿に関係しているわけではありませんが、

尿道を狭窄することで間接的に尿の排出に障害を与えることがあります。

 

近年、前立腺癌の治療法は増えており、

安全で確実な治療が楽に受けられるようになりました

 

年齢、仕事などの社会環境、病院への通いやすさ、などを様々考慮して

最適な治療法をじっくり相談しながら決めてほしいと思います。

 

以上です。

 

home

 

膀胱癌について

【症状】

 

高齢男性に好発し、血尿が主な症状です。

肉眼的に赤い尿が出る肉眼的血尿に限らず、

検査によってはじめてわかる顕微鏡的血尿の場合もあります。

 

後者の場合は検診などの尿検査で指摘されて初めて分かるのですが、

顕微鏡で確認しないとわからないほどの出血ということは

相当早期の発見であるということです。

 

この段階で発見出来たらラッキーでしょう。

 

他にも、頻尿、排尿痛、残尿感、などの膀胱刺激症状と呼ばれる症状

みられることがあります。

 

進行していくと、尿路が閉鎖することによる傷害が発生してきます。

水腎症、排尿時痛、排尿困難などが起こった場合はかなり危険です。

 

また腎臓に影響が現れたり、転移を起こしたりすると、

全身に症状が現れます。

体重減少疼痛、全身倦怠感などが出てくるころには

かなり癌が進行していると考えられます。

 

 

【診療科】

 

泌尿器科(ほかの科にかかったとしても泌尿器科に紹介されます。)

 

 

【検査】

 

肉眼的血尿の主訴や、尿検査での顕微鏡的血尿の指摘があり外来に訪れると、

膀胱癌を疑って以下のような検査を行います。

 

尿検査

→尿細胞診で悪性の細胞の有無を確認します。

→尿中に癌細胞が存在するということは、尿がつくられてから出てくるまでの内のどこかに

癌が潜んでいる可能性が高いということになります。

 

超音波検査

膀胱内の腫瘤を確認します

→最も侵襲性の低い検査なので、診察室では真っ先に行われます

 

膀胱鏡検査

→この検査で癌が見つかることが最も確実な診断法とされています。

→また、膀胱癌の増殖形態の区別をつけることができます。

 

<増殖形態>

乳頭状有茎性~最も多い形態(約70%)。筋層非浸潤癌であることが多い。

結節状広基性~境界不明瞭な筋層浸潤癌であることが多い。

平坦型~境界不明瞭な上皮内癌のことが多い。

乳頭状広基性  ・潰瘍型

 

IVU(静脈性尿路造影)検査

→膀胱内や尿管、腎盂に陰影を確認します。

上部尿路上皮癌の合併の有無を検査します。ただ、近年はあまり使われていないようです。

 

単純胸腹部CT検査

腫瘍の深達度やリンパ節転移、遠隔転移を検査します

また、膀胱癌による尿閉などの症状による腎臓の異常についても見ることができます。

 

MRI検査

→膀胱壁への深達度を評価しやすくなります。

周辺臓器浸潤やリンパ節転移なども確認できます。

 

 

【治療】

 

治療法を決定するためにはまずTNM分類と呼ばれる分類を用いて

癌の進行度合いを表す必要があります。

 

アルファベットはそれぞれ、

T:腫瘍の臓壁への深達度合

N:リンパ節転移の有無

M:遠隔転移の有無

を表しています。

 

分類した病期と、その他の全身状態を考慮して治療法を決定します。

 

①筋層に浸潤していない場合 ≒早期発見

 

治療目的でTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)を行います。

 

再発のリスクが考えられる場合は追加の治療として

膀胱内に薬(抗がん剤、BCG)を注入します。

 

②筋層には浸潤しているが、膀胱内に収まっている場合 ≒進行しかけている

 

根治的膀胱摘除術+骨盤リンパ節郭清術を行います。

膀胱がなくなるため、さらに尿路変向術を行うことが必須となっています。

 

③周辺組織や周辺臓器(前立腺、精嚢、子宮、膣)に浸潤してしまっている場合 ≒進行している

 

②と同じ治療を行うのですが、その前にあらかじめ術前化学療法を行います。

 

④骨盤壁や腹壁に浸潤している場合 ≒かなり進行している。

 

手術は行わず、化学療法、放射線療法を行います。

尿の排出路を確保するために腎瘻を増設することもあります。

 

 

*手術の施行が難しいと考えられる高齢者や合併症持ちの患者には放射線療法や化学放射線療法を用いることがあります。

*TURBTは病理学的評価の診断のためほとんどすべての症例で行われます。

*尿路変向術には4種類存在し、患者さんの状態に合わせて選択します。

 

 

【リスクファクター】

 

喫煙:最大発癌危険因子!!

芳香族アミンへの暴露(染料工場などでの勤務など)

慢性的な膀胱の炎症:ビルハルツ住血吸虫、膀胱結石、神経因性膀胱など

医薬品:フェナセチン(解熱鎮痛薬)、シクロホスファミド(免疫抑制剤)が要因になることも。

コーヒー:飲みすぎには注意。

 

 

【医学生より一言】

 

膀胱癌は早期には非常に症状の乏しい病気です。

多くの患者さんが定期的な検診や、他の疾患の精査中に発見されるケースが多いです。

 

治療に関しては、実際はTNM分類を用いてもっと細かく分けられていて

それぞれに対する治療も少しずつ異なっているのですが、

今回はあくまでもわかりやすくするために4つにまとめました。

 

詳しい治療に関しては担当医にお聞きください。

 

尿というのは体内にある不要な物質や毒素を

体外へ排出してくれるものです。

 

尿排出に関連する臓器(腎臓、膀胱、尿管、尿道など)に

障害が起こると、きちんと体外へ排出できなくなり、

毒素が体内に貯留することになります。

 

だから尿がきちんと出ることは非常に大切なことなのです。

 

少し恥ずかしい気持ちが出てきてしまうのはよくわかりますが、

尿が出にくい、排尿時痛がある、などの症状は

すぐに近くの泌尿器科(なければ内科の先生に紹介状を書いてもらって)に

診察を受けに行くことをおすすめします。